2009年6月、ロンドン大学研究チームは英国食品安全基準局(FSA)の委託を受け、オーガニック食品(以下、有機農産物と有機加工食品を総称する)の栄養価と健康への効果に関し調査を行い発表しました。
 その結果は、「オーガニック食品は一般食品と栄養価は変わらない、また特に健康に良いとはいえない」というもので、研究チームは、「消費者に正確な情報を与えることが目的で、オーガニックに反対しているわけでもないし、賛成しているわけでもない」と説明しています。
 このニェースは欧米の通信社や共同通信、時事通信を通じて日本でも報道されましたが、オーガニックは価格ほどの価値があるのかと言う否定的な報道になっています。これに対し、オーガニックに長年努力されてきた十数名の会員の方々からこの調査発表についてJONAとしてどう考えるかとの質問が寄せられました。

 オーガニックに携わる人々には常識的なことと思いますが、欧米の有機団体の意見と併せてこの報道に関するコメントをします。

【1】まず始めに、この調査は有機農業や有機加工生産が担っている多面的な特質を無視し、栄養価の一部分だけを調査しているに過ぎないことが決定的な間違いであると考える。

 有機農業生産は、水(表層水、地下水)土壌の汚染を防ぎ、生物多様性を維持し、人だけでなく動物・植物を化学物質の汚染から守る。さらに、最近世界で注目を集めている地球温暖化緩和には炭酸ガスを土中に吸収することによって大きな貢献をしている。
 一方、有機加工食品の生産は、自然な添加物や加工助剤しか使用しないなど人体へのマイナスの影響を排除するために、多大の努力をしている。
 また、アフリカ、アジアにおける小農家の有機農業生産の振興は、食糧危機を救い出す一番強力な政策であり、南北の貧富格差を緩和することによって、世界平和を実現しようとする国連やその下部機構のFAOなどが取り上げている政策である。

以上のような点を踏まえ、有機農業や有機加工生産はその重要性を包括的(ホリスティック)に理解され評価されなければならない。

【2】諸外国の有機の団体や研究機関も、この調査の欠点を指摘している。
 主要な論点は、FSAの調査がオーガニックの栄養素と人の健康という狭い視野で行われたこと、およびその調査も最近の重要な研究発表を反映していないことを指摘している。
 さらにオーガニックが、優れて環境共生型であり、自然の再生産、農業の持続性向上、生物の多様性の維持、地球温暖化緩和策、有機農業による最貧国の食糧危機と窮乏からの救済策などを目標にしていることを指摘している。


(1)英国のSoil Association(土壌協会)の意見(7月29日発表)

a)この研究者達の結論には失望した。現存するオーガニックと一般食品の違いに関する多くの研究成果を無視している。
b)差異は無いと言いながら、「オーガニックには有益な栄養素がより多く含まれる」例えば、蛋白が12.7%, ベータカロチン:53.6%, フラボノイド:38.4%, フェノール化合物:13.2% など、更に有機の肉と酪農産品には不飽和脂肪酸が2.1%から27.8%多く含まれているということも、この調査に含まれている。
c)FSAは今年4月に終了した欧州委員会の1800万ユーロのファンドによる大規模な調査結果を含めていない。その調査結果では、有機農産物には栄養的に望ましい成分(抗酸化物質、ビタミンなど)が多く、栄養的に望ましくない成分が少ないなどの報告がある。
d)長期間にわたる有機と一般生産物の健康効果の比較は未だ無いが、2006年に殺虫剤が長期的な健康に与える影響は、免疫機構に重大な障害をひき起こしたり、癌、不妊、新生児障害、神経系への打撃などを起こす危険性を指摘している。

(2)ロデール研究所

この研究所の最高執行役員のラサル氏が米国のHuffington Post紙(7月30日)にFSAの記事のコメントを投稿した。
a)50年前からの5万の論文から55を選んでいる。幾つかの研究は国家による有機基準が定まる前のものである、不幸にもオーガニックの強さを示す最近の研究を含んでおらず、オーガニックに優位性がある分野(抗酸化能力など)を看過している。コメントの内容はほぼSoil Ass.と同じである。
b)ロデール研究所は30年にわたり比較研究してきてが、2008年には地球規模の危機に対処するために有機農業には再生能力があることを説明する内容を発表した。
 オーガニックの生産方法は、土と水の中の殺虫剤や除草剤を少なくすること、良好な土地管理をすること、食品が地球・人々と生物多様性に対して長期的に障害を及ぼす危険をゼロもしくは僅かしか持たないことに対して責任を負っている。
c)個々の栄養素が人体の健康にどのように役立つかを正確に知ることは複雑な評価が必要で、一人ひとり、個人の生体反応、総体的な食事法と健康度、さらに栄養素の消化方法が異なっている。有機と一般の栄養特性は、品種、土壌条件、農場管理、その他生育システムの影響があり、さらに複雑な水準が必要である。現段階では、最善の研究に基づく答えは、長期間やっている農場で、十分に管理しながら二つの実験をし、その作物から特に選んだ栄養分の比較だけに限定される。

(3)その他
a)IFOAM (08/10/09)の発表
 FSAの調査は殺虫剤の問題を避けており、健康に関して大変狭い視野しかない。
b)The Organic Center(TOC米国)の発表
 TOCは、2008年に有機農産物の栄養素が優れていることを発表した。今回の英国FSAの調査報告を詳しく分析し、その欠陥を指摘している。オーガニックの健康については、IFOAMのホームーページをFSAの記事については、The Soil AssociationのホームページとOrganic Centerのホームページを見るように紹介している。
c)Times Online, The Globe Lifeなど一般消費者の意見が掲載されているが、このFSAの記事を読んで、オーガニックに失望したとか、余り価値が無さそうなのでもう買わないと言う意見はない。「作る時に何を投入しているのか?それは自然のものなのか?が問題だ」と素直に考える意見もあった。

2010年8月に公開されたフランス映画「未来の食卓」の初めに、子供が「オーガニックって、自然よ」「美味しいよ」と言う場面があったが、理屈抜きにオーガニックが理解される世の中になればと願っている。
                                              JONA K.M.記