最近、第2者認証の一形態であるPGS(Participatory guarantee system:参加型保証システム)に関する記事を見かけることが多い。
そうした記事のほとんどは、第3者認証システムで動いている有機JAS制度とPGSを対比し、「第3者認証は費用が高いから、その代替として自前のPGSを認めれば、有機生産者が増えて有機農業も拡大する」という論調になっているが、これはかなりミスリードだと感じる。

念のため、第3者認証と第2者認証の違いに触れておくと、前者は生産者(申請者)と利害関係のない団体が審査する認証システムで、後者は生産者と取引関係にある流通業者や消費者が自ら生産者をチェックする確認システムである。
このように書くと、第3者認証も第2者認証も利害関係の有無だけで大きな違いはないような印象を持つかも知れない。しかし、実はここの小さな違いが、生産者の日々の負担に大きく影響する。つまり、第2者認証は直接的なコストは安いが、その代わり確認システムを維持するために、生産者(を含む参加者)は、目には見えない多大な労力と時間を費やさなければならなくなる。

一般の人は、「認証」は基準があれば、それでできると考える。しかし、実際の認証で重要なのは、基準よりも審査の「手順」である。ちなみにこの手順というのは、審査の公平性担保、秘密保持、審査員の能力維持など認証に最低限必要な事項だけでなく、申請者からの不服申立への対応、認証にミスが出たときの損害賠償保険までを含んでおり、検査(認証)機関の国際規格ISO17065で事細かに要求事項が定められている。
現在、国内で有機農産物をJAS認証している第3者認証機関は48団体あるが、この全てがISO17065に準拠した手順をもっている。そして、日々その手順(認証システム)の維持管理に多くの時間と労力を費やしているのだ。

基準はあるが審査手順が曖昧な第2者認証を不用意に進めると、審査が不公正かつ不透明になりやすい。例えば、仲のいい人には甘く、気に入らない人には厳しいというような……。それでは社会的信頼を得られないので、審査手順を是正しようということになれば、第2者認証に参加する生産者は、農作業の時間を削って手順の維持管理に関わらなければならなくなる。実のところそうした状況は、いち早く第2者認証(PGS)に取り組んだ一部の国ですでに起きており、生産者は負担に耐えかねて第3者認証へ回帰し始めているという。

第3者認証も第2者認証も作り手と買い手をつなぐ道具という意味では同じようなものであるが、上記のような理由で第2者認証(PGS)に取り組んだからといって有機生産者や有機農業が増えるという言説には確かな論拠はない。
それどころか、日本のように第3者認証による有機JASの表示制度が浸透している国においては、市場の混乱を招き有機農業全体の信頼性を低下させるリスクさえはらんでいる。

有機農産物でベストな取引形態は、「顔が見える信頼関係に基づく直接取引」である。しかし、すべての有機農産物がベストな形で取引されるわけではないので、認証という顔が見えない関係をつなぐ道具が必要になる。顔が見えないからこそ、認証には万人が納得できる「手順」が不可欠となる。そして、それこそが第3者認証の信頼性を担保する生命線であり、第2者認証にはない特長なのである。

JONA理事長 高橋勉 2022.2.22